一ヵ月で現地の言葉を楽しめるようになるために、最も気をつけなければいけないのは本や教材の選定にあります。ここを間違ってしまうとその後の努力が無駄になります。北に向かおうとしているのに南に向かって歩いているようなことになります。まずは相手が言っていることを聴き取れるようになろうという視点に立つと、星の数ほどある教材はかなり絞り込むことができます。絞り込みは以下の条件になります。
1.旅行の場面を想定したテキストであること
2.音声教材(=CD、DVDなど)が付属になっていること
3.ノーマルスピードの音声が入っていること
4.日本語が音声教材に入っていないこと
5.仮に日本語が収録されていても外国語→日本語の順番で収録されていること
この5つです。この絞り込み条件の理由はひとつひとつ解説していきます。
1.旅行の場面を想定したテキストであること
旅行の場面を想定したテキストであることは、文法中心のテキストではなく会話中心のテキストを指しています。会話中心のテキストでは一部の例外を除いて旅行の場面を想定しながら制作されています。
目次に、「入国手続き、両替、乗り物、ホテル、ショッピング、レストランの場面」のようなタイトルがあるものは会話中心テキストですし、旅行会話を学ぶには最適と言えます。
2.音声教材(=CD、DVDなど)が付属になっていること
このコラムで紹介する学習方法は聴く力をつけることに重点におきますので、CDやDVDなどがついていることが前提です。書店で実際の本を手にとって、曲げてみてすんなりと曲がってしまうテキストはCDがついていないのでそこで却下です。
またネットから購入するときなら、必ず「CD付き」とあるものを選びましょう。最近では、音声はウェブやアプリからダウンロードするという方法をとっているものもありますが、それはまだ少数ですし、そのようなダウンロードの方法を採用しているのは、今のところ英語と中国語に限られています。
さて、3と4と5は実際に購入してからでないとわからないという問題があります。2のように書店に実際行って手にとるという手段があるわけではありません。しかしご安心ください。後ほど推薦するテキストはこの問題をクリアしているものです。
3.ノーマルスピードの音声が入っていること
ノーマルスピードの音声が入っていることがなぜ重要かといいますと、入門語学テキストに収録されているようなゆっくりしたスピードで話す現地のネイティブスピーカーはいないということにあります。
海外に出てしまえば、現地の人はノーマルスピードでしか話をしません。「ゆっくり話してくれ」といっても約半数の人はゆっくり話すのではなく、大きな声で話します。それにご自身でやってみるとおわかりになると思いますが、いつも話しているスピードの半分のスピードでゆっくり話すのは非常につらいことです。
特に長時間話すのは外国語講師でもない限りしてくれませえん。この状況は外国人にとっても同じです。従ってノーマルスピード(それでも現地に行くともっと早口で話す人はたくさんいますが)で収録された音声教材がどうしても必要なのです。
ノーマルスピードで話される言葉はその言語独特のイントネーション、リズムを含んでいて聞いているだけで楽しくなります。勉強するつもりがなくても、流しているだけでわくわくしたり楽しくなったりします。
個人的にはロシア語やフランス語は意味がわからなくてもきれいな音の流れだけを楽しんだりすることがあります。これに対して遅いスピードの音声を聞いていると勉強しなくちゃ的な無意識の圧力になってしまい、後で紹介する流し聞きをやらなくなってしまいます。
4.日本語が音声教材に入っていないこと
私たちの母語は日本語です。つまり、私たちは日本語で話されたものに一番敏感に反応し、記憶してしまう癖があります。普通の日本人であれば、同じ内容の文章を日本語と英語で同時に話されたときに聴き取るのは日本語の方が優先になります。また記憶に残るのも日本語が優先になります。
このような傾向を考えると、日本語と外国語が混在している音声教材では、何度聞いても日本語の部分しか記憶できないことが起こります。従ってできるだけ音声は外国語だけのものがのぞましいようなのです。
5.仮に日本語が収録されていても外国語→日本語の順番で収録されていること
数十年前の音声教材ではほとんどが日本語→外国語の順番で収録されているものでした。これは外国語を「話せるようになる」という視点からとらえた教材が多かったことが影響しているようです。
日本語が流れて、その後に外国語が流れるという教材では、まず日本語が流れたときにそれに該当する外国語を想起できるまで訓練しなければなりません。これは意外とハードなのです。なぜならテキストを暗記してなければいけませんから、学習のスピードが遅くなります。
しかし実際に旅行で必要なのは「相手が言っていることがわかる」ことです。そうするとまず外国語が流れてきて「どういう意味かな」と考え、その後にその正解という形で日本語が流れてくるのが好ましいのです。
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